そもそも「屋根葺き替え」ってどんな工事?
屋根リフォームを検討している方にとって、必ず一度は目にしたり業者から勧められるのが「屋根葺き替え」です。
では、この「屋根葺き替え」とは一体どんな工事なのでしょう?
「屋根葺き替え」は他の屋根工事と何が違うの?
屋根葺き替えとは、瓦やカラーベストといった屋根表面に設置されている屋根材だけでなく、屋根下地となる野地板やその上に敷いてある防水シート(ルーフィング)に至るまで、屋根を構成するすべてを新調する工法です。
簡単に言うと、「屋根全体が新築の状態に戻る」イメージですね。
屋根を構成するすべてを新調、あるいは修繕するため、「屋根葺き直し」や「カバー工法」といった他の工法より屋根の機能回復・美観回復において効果が高い工法と言えます。
「葺き替え」の意味とは?
屋根葺き替えの中に含まれる「葺く(ふく)」という単語、この単語の意味を説明できる方はそう多くないでしょう。
屋根リフォームでは、この「葺く」という単語は「屋根材を敷く・設置する」という意味があります。
例えば「茅葺き屋根(かやぶきやね)」は、茅を材料にして屋根を敷いているので「茅葺き」と呼ばれています。
改めて「葺き替え」の言葉の意味を見てみると、下地や防水シートも新調・修繕し、屋根材も新しいものへと取り替えるから「葺き替え」という訳ですね。
ちなみに、屋根工事には他にも「屋根葺き直し」や「カバー工法(重ね葺き)」といった工法があります。
「屋根葺き直し」は、下地や防水シートを新調・修繕するところまでは葺き替えと同じですが、一旦取り外した屋根材は処分せずに再度屋根に敷き直します。
屋根の見えない部分だけを新調・修繕し、表面の屋根材は敷き直すから「葺き直し」です。
また、「カバー工法(重ね葺き)」は既存の屋根はそのままに、その上から新しい軽量な金属屋根を敷いていく工法です。
屋根を新しい屋根材で「カバー(重ねる)」するから「カバー工法(重ね葺き)」と呼ばれています。
まとめると、
- 下地や防水シート、屋根材まですべてを新調・修繕するのが「屋根葺き替え」
- 下地や防水シートだけを新調・修繕し、屋根材を再利用するのが「屋根葺き直し」
- 既存の屋根はそのままに、その上から屋根材を重ねるのが「カバー工法(重ね葺き)」
ただし、この中で「屋根葺き直し」は基本的には既存屋根が瓦の場合にしか対応できません。
また「カバー工法(重ね葺き)」は瓦屋根には対応できず、新たに重ねる屋根材も軽量な屋根材と種類が限られます。
既存屋根の種類や新しく採用する屋根材を問わないという意味では、「屋根葺き替え」が最も工事の自由度が高い工法となります。
耐震性能の向上を目的とした「葺き替え」も人気
本来は屋根の機能回復・美観回復などメンテナンスを目的として行われるのが屋根葺き替えですが、近年では耐震性の向上を目的として、瓦屋根から軽量な金属屋根への葺き替えも増えています。
日本の戸建て住宅に採用されている屋根材は、2021年の調査では金属屋根材が6割を占め、瓦が3割近くを占めています。
この調査結果からも、まだまだ日本では瓦は人気の屋根材であることが伺えますね。
金属屋根材は非常に軽量な屋根材ですが、瓦は皆様もご存じのように非常に重量のある屋根材であり、金属屋根材と比べると1㎡あたりの重量はおよそ10倍です。
1995年に阪神・淡路大震災が発生した際、テレビで流された倒壊した瓦屋根住宅の映像を記憶している方も多いでしょう。
これによって、「瓦屋根は地震に弱い」といったイメージが定着してしまったのです。
しかし実際には、瓦も軽量化が進んでいますし、昔ながらの土で固める工法から釘やビスで固定する工法に変わってきています。
そのため注意していただきたいのが、地震による倒壊は屋根材ではなく建物自体の耐震性能が大きく関わってくるという点です。
しかしながら、上述のような「瓦屋根は地震に弱い」というイメージから、現在瓦屋根の住宅に住んでいる方が耐震性の向上を目的として、軽量な金属屋根へ葺き替える事例が近年急増しているのです。
このように、建物の倒壊には屋根材の重量はそこまで影響しませんが、一方で瓦などの重たい屋根材から軽い金属屋根などに葺き替えることで建物の重心が下がり、地震の際の揺れに強くなるという側面もあります。
建物の重心が高くなるほど、地震の際の揺れの影響を受けやすくなり、建物が大きく揺らされることになるのです。
その意味では、軽量な金属屋根へ葺き替えることに意味が無い訳では決してありません。
地震によって建物が被害を被るかは、屋根材だけでなく建物自体の耐震性能も大きく関わってきます。
そのため、耐震性の向上だけを目的として葺き替えを行うのはコストパフォーマンスがあまり良いとは言えません。
屋根のリフォームを行う際に、屋根の機能回復・美観回復と併せて検討するのが良いでしょう。
葺き替えはどんな工程で施工が進むの?
それでは、具体的に葺き替えはどのような工程で工事が進んでいくのかを見ていきましょう。
葺き替えは一般的な戸建て住宅の場合、およそ7日~10日ほどで完工します。
ここでは、1工程ごとの作業期間と併せて、きちんと作業が行われているかチェックしていただきたいポイントも解説します。
足場設置
まず最初に行われるのが足場の設置です。
屋根工事は高所での作業となるため、職人さんの安全を確保する意味でも、作業効率を上げる意味でも足場の設置は必須です。
足場の設置が完了すれば、続いて作業中のホコリやゴミが飛散しないよう足場に養生シートを張っていきます。
一般的な戸建て住宅の場合、半日あれば足場設置は完了するでしょう。
注意していただきたいポイントは、「単管足場」ではなくちゃんと「ビケ足場(くさび緊結式足場)」が使用されているかどうかです。
「ビケ足場」とは、上記の画像のように緊結部を備えた鋼管を柱として、手すりや筋交を柱の緊結部に緊結して組み立てる足場を指します。
一方「単管足場」は、下記の画像のように単管パイプにクランプという金具を取り付け、ボルトで固定して組み立てていく足場です。
単管パイプを繋げただけの「単管足場」は法律違反となるので、ちゃんと「ビケ足場」が設置されているか確認しましょう。
また、「ビケ足場」は法令は遵守しているので設置自体は問題ありませんが、一方でハンマーで打ちつけながら部品を組み立てていくため、騒音が出やすいというデメリットがあります。
後々の近隣トラブルを防ぐためにも、業者には着工前に近隣の方々へ挨拶に行ってもらうようにしましょう。
既存屋根の撤去・処分
続いては、既存屋根の撤去・処分です。
元々屋根に葺かれている屋根材を撤去して処分します。
作業自体は1日で完了しますが、この工程から屋根は雨に対して無防備な状態になってしまいます。
そのため、天気予報次第で既存屋根の撤去・処分から下記の防水シート設置までは人数をかけて一気に終わらせる場合があります。
下地設置
既存屋根の撤去が終われば、次に下地設置です。
既存下地の上に新しい下地板を張っていく工程ですが、既存下地に痛みや腐食が激しい場合は、該当箇所も新調・修繕します。
作業時間はおよそ2〜3時間程度です。
注意点として、新しい下地はビスを打って固定しますが、ビス打ちの音が大きく騒音となりやすいです。
足場設置と併せて、事前に近隣の方々へ挨拶をしておきましょう。
防水シート設置
下地設置が完了すれば、防水シートの設置です。
こちらも下地設置と同じく作業時間はおよそ2〜3時間程度です。
この防水シートは、屋根材が受け止めきれなかった雨水が屋根内部へ入るのを防ぐという役割があります。
逆に言えば、防水シートに隙間ができてしまうと雨漏りの原因にもなりかねません。
工事後には業者に写真を撮ってもらい、防水シートが隙間なく敷かれているかを確認しましょう。
新屋根材葺き
次に、新しい屋根材を葺いていきます。
前工程の防水シートの設置までは雨が降ると雨漏りが起こる可能性がありましたが、ここまで作業が進めば雨漏りの心配はありません。
そのため、ここまでは人数をかけて一気に進めることもありますが、ここからは人数を減らして作業する場合もあります。
作業にあたる人数や屋根の大きさにもよりますが、屋根材葺きにはおよそ3~4日ほどかかります。
こちらも防水シート設置と同様に、工事後には業者に写真を撮ってもらい、隙間なく綺麗に屋根が敷かれているかを確認しましょう。
板金設置
屋根材を葺き終われば、次に屋根板金を設置していきます。
屋根は屋根材だけで構成されているのではなく、各種板金を設置することで完成します。
ここで言う板金とは、棟板金・ケラバ水切り・軒先水切り・雨押さえなどを指します。
板金には屋根材と屋根材の隙間、あるいは屋根と外壁の取り合い部分から内部へ雨水が侵入するのを防ぐ役割があります。
屋根材葺きと同時に作業を行う場合もありますが、作業自体は1日程度です。
住み慣れたマイホームでも、建物の中には名称を知らない箇所も数多くあるのではないでしょうか。
建物の各部材の名称はこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
足場解体
すべての工程が完了すれば、足場を解体します。
基本的には屋根工事を行う職人と足場を解体する職人は別業者なので、屋根工事が終わってから足場解体まで若干日数が空く場合もあります。
解体作業は設置と同様に半日程度です。
葺き替えにかかる費用相場はいくら?
屋根葺き替えを検討されている方にとって、一番気になるのはやはり費用では無いでしょうか?
首都圏での持家の平均延べ床面積は、およそ115.7㎡(坪換算35.06坪)とされていますが、30坪〜35坪ほどの戸建住宅ならば100~180万円が費用相場となります。
瓦から瓦 | 100〜250万円 |
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瓦からスレート | 70〜180万円 |
瓦からガルバリウム | 80〜200万円 |
スレートからスレート | 70〜150万円 |
スレートからガルバリウム | 80〜180万円 |
ガルバリウムからスレート | 60〜150万円 |
表をご覧になっておわかりのように、葺き替えは既存屋根がどんな屋根材か、そして新しく何の屋根材を採用するかによって費用が大きく異なります。
また、同じ工事でも相場の幅が非常に大きいです。
これは、屋根の面積・形状・勾配などによってもかかる費用が大きく違ってくるからです。
例えば、屋根の勾配が急な場合は通常の足場とは別に屋根用足場を設置する必要があるため、その分足場設置費用が嵩みます。
また、建物の立地によっては足場の設置や資材の搬入に時間がかかったりする場合もあり、その分職人の工賃が嵩んでしまうケースもあるでしょう。
葺き替えの費用については、まずは複数業者に相見積もりを依頼し、現場をしっかり調査してもらった上で見積もりを出してもらいましょう。
その上で、屋根の状態や構造によっては葺き直しやカバー工法といった別の工法を選べる場合もあり、そちらを選べば費用を抑えることができるので、まずは業者に相談してみましょう。
葺き替え工事を行うメリットとは?
ここまで解説してきたように、葺き替えは各種屋根工事の中で最も大掛かりな工事であり、費用も最も高額になります。
そのため、業者から葺き替え工事を勧められた場合でも「本当に葺き替えじゃないとダメなの?」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、ぜひ知っておきたい葺き替え工事を行うメリットを解説します。
建物の寿命が延びる
葺き替え工事を行うと、屋根の機能が新築時の状態へと戻ります。
屋根は雨風や紫外線といった自然環境から365日住まいを守ってくれている、建物の要とも言える重要な箇所です。
その屋根の機能が回復するということは、そのまま建物自体の寿命を延ばすことに直結します。
新築時の美観を取り戻せる
建物の外観は、その多くを屋根が占めています。
カバー工法で新品の屋根材を上から張り付けたり、屋根塗装を行なっても綺麗にはなりますが、やはりすべてを新調した屋根は一味違います。
耐震性が向上する
すべての葺き替え工事に当てはまる訳ではありませんが、重たい屋根材から軽い屋根材に変更した場合は耐震性が向上します。
瓦などの重たい屋根材だと建物の重心が高くなるため、地震の揺れの影響を大きく受けてしまい、建物が大きく揺らされることになります。
屋根リフォームの際に屋根の軽量化をされる方も多く、地震が多い近年では葺き替えによる屋根軽量化の需要が高まっています。
屋根にかけるトータルコストを抑えられる場合がある
葺き替えは屋根工事において最も機能回復・美観回復の効果が高い分、施工には多くの工程を要するので費用が高額になりがちです。
また、工期も他の工法と比べると長いです。
しかし、屋根に対してのメンテナンスは10〜15年周期で必ず訪れるものです。
一度きりの工事金額だけでなく、しっかりしたメンテナンスや修繕工事を行わず雨漏りが発生した場合の費用、頻繁に発生する屋根のトラブルにおける修繕費用などを考えてみましょう。
長期的な視点で考えた場合、今回は工事金額が高くなったとしても、今後屋根に対してかかるトータルコストを考慮すれば、一度葺き替えを行なってすべて綺麗にしておいた方が実は安く済んだというケースもあるのです。
以下の年数は、各屋根材ごとの葺き替えを検討し、一度屋根をリフレッシュした方が良いとされる築年数の目安です。
瓦屋根 : 50年
スレート屋根 : 30年
金属屋根 : 20~40年
上記の年数を過ぎている場合は葺き替えを検討し、数字に近い築年数の場合は一度屋根診断だけでも行いましょう。
屋根葺き替えってどんな工事?まとめ
繰り返しになりますが、葺き替え工事は各種屋根工事の中で最も高額な分、最も屋根リフォーム・メンテナンス効果が高い工法です。
そのため、
- すでに雨漏りが起こっている・雨漏りを放置している
- 屋根が錆びて穴が空いている・地上から見てわかるくらい屋根にひび割れが起こっている
- 新築から30年〜40年経過しいている・その間ちゃんとメンテナンスしていない
という場合には、葺き替えを検討すると良いでしょう。
一度きりの工事費用で見た場合には高額かもしれませんが、屋根が新築の状態に戻るので今後屋根にかかるトータルコストを抑えることができますし、何より大切な住まいの寿命を延ばすことができます。